本当の幸せとは? 2
しかし、警察署で彼の持ち物であった海事鑑定手帳の写真と、夫カンラスが同一人物であることを聞きだし、遺体確認のため駿河台日大病院へ静かに向かった。
穏やかな顔で横たわっている夫。
私たちは冷たい体を揺り動かした。
夫は、海事鑑定人(サーベイヤー)として、船荷、船体、海上火災などの鑑定業務に当たっていた。
港に停泊する船に乗りこみ、鑑定、検査などをしながら厳密にメモをとり、鑑定報告書を作成する。
この報告書なしには、輸出入取引は行なわれず、また、火災のさい損害金も支払われない。
国際的に「公正な立場」に立つ者として、誇りと責任を持ちながら働いていた。
報告書には、のちの紛争事案とならないためにも、簡潔で的を得た高度な英文が要求される。
報告書の結びには鑑定人自身の意見が書かれるが、これがいちばん気を遣う部分なのだ。
報告書の評価の対象となると同時に、直接、会社の売上げにも響く。
タイプ原稿は疲れると言い、晩年は直筆で書いていた。
末娘が、「私の机でパパはよく勉強していた」と作文に書くほど、夜半に至るまで家で仕事をしていた。
家では、私は彼の秘書として、日本語の資料の同時通訳などを手伝わされた。
「この報告書を提出しないと給料が出ないよ」と、よく私に無理を言った。
海事鑑定人っていう響きはカッコイイですが、かなり仕事内容はハードなんですね。